賃貸経営、物件建て替えの採算厳しく リノベが選択肢
建築費が高騰しています。賃貸経営をする人の間では、老朽化した物件の建て替えを検討する動きもあるようですが、金利上昇も相まって採算が合いにくくなりつつあるようです。
賃料、建築費上昇に追い付かず
次のグラフは建設物価調査会(東京・中央)が公表する東京地区のマンション(鉄筋コンクリート造)の建築費指数、東日本不動産流通機構(東京・千代田)が首都圏不動産流通市場の動向で掲載している首都圏マンションの平均成約賃料について、2015年1〜3月期を100として示したものです。建築費は月次の値を基に四半期換算しています。建築費、平均成約賃料は21年ごろまで同じような推移をしていましたが、24年10月〜12月期は建築費が134.0、賃料は119.7と大きな差が生じています。
計算を簡単にするため、10坪(1坪は約3.3平方メートル)の賃貸マンションを建築すると仮定しましょう。15年当時の建築費を1坪あたり100万円とすれば総額は1000万円です。年間賃料収入を84万円(月額賃料1坪あたり7000円)、賃貸運営コストを賃料の3割(年間約25万円)とすると年間利益は約59万円となります。工事費全額を返済期間30年で元利均等返済、利率2%で借りた場合、年間返済額は約45万円となるので税引き前の年間手取り額は約14万円です。
一方、現在は建築費が15年当時の約1.35倍ですから約1350万円、年間賃料は約1.2倍で約101万円(月額賃料1坪あたり8400円)です。運営コストを同じく賃料の3割とすれば年間利益は約71万円です。ここでも工事費を全額借り入れるとします。返済期間30年の元利均等返済で、金利はこのところの上昇を踏まえて3%と想定すると年間返済額は約69万円となり、税引き前の年間手取り額は約2万円にしかなりません。かなり採算が悪くなっているといえます。
既存の建物を生かす手も
こうなると空室率が少し高まる、賃料が少し下落する、金利がさらに上昇するだけで赤字に転落しかねません。賃料がさらに低い地域であれば、採算はもっと厳しくなるでしょう。こうした中、既存の建物に効果的な投資をすることでリターンを得ようという考え方が広がりつつあります。空室になった部屋を単に原状回復するだけではなく、間取りの変更などしっかりお金をかけて大規模な工事をするリノベーションを実施し、競合する賃貸物件と差別化を図るという取り組みです。新築ほどお金がかかるわけではないため、採算が合うケースもあるようです。
例えば10坪の賃貸空間があったとします。新築で同じ空間を建築するには1350万円かかりますが、仮に新築工事費の40%相当となる540万円でリノベーションしたとします。同じ条件で工事費を借りると年間返済額は約28万円となるので、仮に1坪あたり月額4200円(新築する場合の1坪8400円の半額)で貸すことができれば賃料収入は年間約50万円、税引き前の手取り額は年間約8万円を確保できるという計算になります。こう考えると、既存の建物を生かすという選択肢もありそうです。
既存の建物を生かして上手に差別化を図ることができれば、採算が想定以上に良くなるというケースもあります。筆者は十数年前に当時築38年だった木造アパートを再生した経験があります。現在でも賃料単価は周辺の新築賃貸マンションの半分強の水準を維持し、空室がほとんどない状態にできています。最近では工夫を凝らしたリノベーションが得意な設計会社や工務店、不動産会社も増えているので、相談してみるといいでしょう。