2025年10月施行「住宅セーフティネット法」改正の“3本柱”!借りづらい人と大家を安心でつなぐ仕組みの変更点とは

2025年10月より施行「改正セーフティネット法」

2025年10月より施行「改正セーフティネット法」

低所得者や高齢者など住宅確保が難しい“住宅確保要配慮者”(以下、要配慮者)が安心して賃貸住宅に入居できるように支援する法律、いわゆる「住宅セーフティネット法」。最新の改正が2024年6月に公布され、2025年10月1日より施行となる。

住宅セーフティネット法はこれまで、要配慮者の入居支援、民間賃貸の活用と、改正を重ねてきた。
今回の改正は、「大家の不安軽減」と「入居者の安全・安心の強化」にポイントを置いた内容となっている。現行法からどう新しく変わるのでしょうか。。

これまでの制度 vs. 改正後の主な違い

「大家の不安軽減」と「入居者の安全・安心の強化」という今回の変更点は、具体的に3つの指針によって成り立っている。
1つ目は、「大家が賃貸住宅を提供しやすく、要配慮者が円滑に入居できる市場環境の整備」。
2つ目は、「居住支援法人等が入居中サポートを行う賃貸住宅の供給促進」。
3つ目は、「住宅施策と福祉施策が連携した地域の居住支援体制の強化」だ。

柱①大家も借りにくい人も安心できる住まいの仕組みづくり

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「大家が賃貸住宅を提供しやすく、要配慮者が円滑に入居できる市場環境の整備」とは、民間賃貸の大家が、安心して要配慮者へ貸し出せるための法整備を定めたもの。要配慮者へ大家が抱く、高齢者の孤独死にまつわる問題、認知症による近隣トラブルや火災のリスク、連帯保証人を立てにくい点などをフォローする4つの内容で構成されている。

 

終身建物賃貸借の利用促進
一般的な賃貸契約では、もし入居者が亡くなってしまうと、賃貸契約もまた相続人に相続される。そのため、相続人がわかるまでの家賃未払いや、単身者の孤独死によって“賃借権相続先不明で空き室状態”が発生してしまう。それを解消する方法のひとつが、入居者が死亡すると自動的に契約が終了する、一代限りの契約「終身建物賃貸借」だ。

今回の改正では、終身建物賃貸借の認可手続きを簡素化。改正前は賃貸業オーナーによる住宅ごとの認可が必要だが、改正後は事業者として認可を受け、その後に対象となる住宅を届け出る方式に変更。手続きがしやすくなることで、中高年以上の単身者入居のハードルが下がることが期待されている。

 

居住支援法人による残置物処理
入居者死亡時の残置物処理もまた、相続人が見つからない場合に大家にとって頭を抱える問題。大家だからといって、入居者の所有物を同意なく廃棄できず、原状回復費もかさむからだ。

残置物処理を円滑に行うため、今回の改正では居住支援法人が残置物処理業務を行う要項が追加されている。居住支援法人が都道府県知事から残置物処理の認可を得て、入居者からの委任に基づいて万一の際は残置物処理を行うことが想定されている。

たとえば、入居希望者と居住支援法人が残置物処理の契約を締結。大家はその契約を盛り込んだ賃貸借契約を結び、入居者が亡くなってしまった際には、残置物処理の契約を結んだ居住支援法人に連絡することで、残置物処理を行ってもらう、という流れとなる。

家賃債務保証業者の認定と保険適用
国土交通省が行った「令和3年度 家賃債務保証業者の登録制度に関する実態調査」によると、民間賃貸の約80%が家賃債務保証会社(家賃保証)を利用している。しかし、要配慮者が審査に落ちてしまうことは少なくない。

要配慮者が利用しやすい家賃債務保証業者を、国土交通大臣が「認定保証業者」として認定。
認定保証業者は、独立行政法人住宅金融支援機構の家賃債務保証保険を利用することができるようになる。これによって、要配慮者への保証リスクが低減される仕組みだ。

要配慮者は審査が通りやすくなり、大家は家賃の未払いを回避でき、家賃債務保証会社は債務不履行による損益が出ても保険で補填できる。三方よしの安心につながる制度となっている。

生活保護利用者向け:家賃の代理納付の原則化
これまで、生活保護利用者への住宅扶助(家賃の支給)は、利用者の口座に振り込まれることが通例だった。しかし、生活費など別の出費に充ててしまい、大家への支払いに回らず、家賃を滞納することもあるそうだ。

今回の改正では、住宅扶助を利用者が大家へ支払うのではなく、自治体の生活保護課をはじめとする生活保護実施機関が賃貸人に直接支払う方法が原則化される。

柱②居住支援法人と連携した「居住サポート住宅」の新設

柱②居住支援法人と連携した「居住サポート住宅」の新設

単身高齢者を筆頭に、要配慮者は増加傾向にある。一方で、持ち家率は低下し、要配慮者の賃貸住宅へのニーズは高まっている。要配慮者のニーズに対して、大家が安心して貸せる物件を目指したのが、居住支援法人等が入居中サポートを行う賃貸住宅「居住サポート住宅」だ。
今回の改正では、居住サポート住宅の供給促進が明記されている。

居住サポート住宅とは、ICT(情報通信技術)等による安否確認サービスや居住支援法人等の訪問等による見守り、居住支援法人等と大家との連携、福祉サービスへの連携が付帯した住宅を指す。

たとえば、単身高齢者の入居を想定した居住サポート住宅の場合。居室内の廊下などに人感センサー付き照明を設置し、一定期間センサーの反応がないと居住支援法人に連絡が入る。居住支援法人が訪問し、生活や心身の状況が不安定になった場合には最適な福祉窓口へとつなぐスキームだ。

2025年12月12日を期日に、2025年度の居住サポート住宅の民間事業者募集が行われており、認定を得られれば、1戸につき補助対象工事費用の3分の1(上限50万円/戸 等)の補助が受けられる。

また、居住サポート住宅に入居する要配慮者に関しては、先に紹介した認定家賃債務保証業者が家賃債務保証を原則引き受けることとなっている。

柱③国土交通省と厚生労働省のクロスオーバーがより強化される

柱③国土交通省と厚生労働省のクロスオーバーがより強化される

2017年(平成29年)、国土交通省の管轄でセーフティネット法が制定された。その際、「住宅確保要配慮者」と名付けられた背景には、当事者の入居の難しさに重きが置かれていたことがうかがえる。
しかし、制度が発展するにつれ、要配慮者の入居前の支援だけでなく入居後の生活支援まで安定して受けられるようにする必要があることがわかってきた。国土交通省が管轄する“住宅施策”と厚生労働省の管轄である“福祉施策”が連携したうえで、地域の居住支援体制の強化を図ることが、今回の改正で規定されることになった。

国土交通省・厚生労働省の共同基本方針策定
これまで住宅は国土交通省、福祉は厚生労働省と施策が線引きされて各官庁で進める様相だった。だが、住宅施策と福祉施策の整合性をとるため、両省が共同で基本方針を策定する。

2つの官庁の連携によって、住宅提供と福祉サービスが一体となった居住支援体制を強化する目的だ。

市区町村での居住支援協議会設置が努力義務化
居住支援協議会とは、要配慮者が民間賃貸住宅にスムーズに入居できるよう、地方公共団体・不動産関係団体・居住支援団体等が連携した協議会だ。
要配慮者と民間賃貸住宅の賃貸人の双方に対しての支援や、制度の周知を行うことを目的に自治体単位で設置されている。
具体的には、要配慮者には物件情報の提供や入居に向けた支援が、大家に対しては入居希望者や居住支援法人へのマッチング支援、制度の活用支援などが行われている。

2025年度第1四半期末で、都道府県も含めた居住支援協議会の数は全国に163。日本にある1741の市区町村すべてをカバーできているわけではないことから、努力義務となり、設置数の増加を狙う。
居住支援協議会が設置されることにより、自治体内での住まいに関する支援が活性化されることから、体制のさらなる強化が期待されている。

「10年で10万戸へ」。住宅セーフティネット法改正に期待と懸念

「10年で10万戸へ」。住宅セーフティネット法改正に期待と懸念

今回の住宅セーフティネット法改正では、居住サポート住宅の供給戸数の目標値を施行後10年間で10万戸、居住支援協議会を設立した市区町村の人口カバー率を施行後10年間で9割、という数値を設定している。
達成に向けて、不動産業界・社会福祉・行政・居住支援の各人の取り組みが必要になるだろう。また、現場レベルの対応では横のつながりも必須となるため、今後どのような連携が進んでいくかにも注視が必要だ。

セーフティネットとしての賃貸住宅の活用には、大家の空室対策や物件価値の向上、要配慮者の入居しやすさの推進などの大きなメリットがある。その一方、今回の改正では居住支援法人が担うウェイトが非常に高くなっている。対応負荷や支援で生じるリスク、自治体への負荷といった懸念点を、いかにクリアしていくかが課題だろう。永続的な制度の運用と、制度の成熟に期待したい。

 

【LIFULL HOME’S PRESS/ライフルホームズプレス】より引用

 

 

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